警察官が被疑者を逮捕した場合、逮捕だけでは、被疑者を72時間しか拘束することはできません。 検察官が裁判所に10日間の勾留請求を出し、裁判所がこれを認めた場合、初めて、さらに拘束することができるようになります。 検察官の勾留請求を認めない裁判所の決定を勾留請求却下と言います。

「勾留請求却下率の推移」で記載させていただいたように、勾留請求却下が出されるのは、勾留請求された件数の1.07パーセントです。 この記事を最初に出したことから、勾留請求却下は、まずでないのではないかというイメージを皆様に持たせてしまったかもしれませんが、必ずしもそうではありません。

勾留請求が認められると、10日間は勾留されることになります。 他方、勾留請求が却下されれば、その日の内に釈放されることになります。まさに、天国と地獄の差と言えます。

当法律事務所が受任した案件の内、ちかん(迷惑防止条例違反事件)・傷害等の事件については、多数の勾留請求却下の決定を取得しています。 受任の段階で、これは却下されそうだなと思う事案については、多くの場合(半分以上)、却下、あるいは、そもそも検察が勾留請求を行わないなどの結果が出ています。

このように上記の勾留請求の却下率と当法律事務所での受任事件における経験の間にはギャップがあります。

このようなギャップが生じるのは、1つには、上記の勾留請求却下率が、殺人・強盗等の重大犯罪を含めた数値であることになります。 相対的に軽い犯罪の事件であればより、勾留請求却下が出やすくなります。

もう1つは、なかなか、弁護士が間に合うタイミングで委任されず、上記の勾留請求却下率の前提となる事件の多くには、弁護士が委任されていない可能性が大きいことが考えられます。 もちろん、勾留請求を行うのは検察官ですし、勾留請求を認めるか、却下するかを決めるのは裁判官です。 弁護士が受任されなくとも、裁判官が勾留請求を却下することもありますし、検事が勾留請求を行わないこともあります。 しかし、私の経験でも、弁護士がついていて、裁判官(検察官)と交渉した結果、却下が出たと考えられる例も少なくありません。

警察が被疑者を逮捕し身体を拘束した場合は、48時間以内に書類及び証拠物とともに身柄を検察庁に送致する手続きをしなければなりません。 送致を受けた検察官は、被疑者に弁解の機会を与え、留置の必要がないと考えるときは直ちに釈放し、留置の必要があると考えるときは、被疑者を受け取った時から24時間以内に裁判官に被疑者の勾留を請求しなければならないということになっています。

例として、東京地方裁判所あるいは東京地方裁判所立川支部の管轄内の警察署で逮捕された場合を挙げると、逮捕された時間によりずれることもありますが、
 ① 5月1日に逮捕された場合
 ② 5月2日に検察庁で弁解を聞かれ、その上で検察官が勾留請求を行い
 ③ 5月3日に裁判所で、勾留請求が認められるか却下されるかの決定が行われる
というようなことになります。なお、東京地方裁判所以外の裁判所の場合は、②の検察庁の弁解録取と③の裁判所の決定が同じ日に行われることも多いです。

①の時点で、弁護士に委任してもらえれば、弁護士としては、その日に被疑者と接見し、詳しい事情を聴き、家族からも事情を聞いた上で、検察官(②の時点)と交渉し、だめな場合は、さらに、裁判官(③の時点)で、勾留請求を却下してくれるよう交渉することができます。

しかし、③の時点で弁護士に相談されても、既に、被疑者は裁判所に行っており、事情等を聞くことが困難なことから、上記のように裁判官と交渉することができなくなります。
この点からも、一日も早く弁護士にご相談いただきたいと思います。

下記に、当法律事務所が、勾留請求却下を取得した事例及び勾留請求を止めた事例のいくつかを記載します。 なお、個人が特定されないよう適宜、事案等変更していますので、ご了承下さい。

A 30代、男性、会社員(会社の社員数約150人)、迷惑防止条例違反により逮捕、犯行は認めた。前科前歴はない。家族あり。逮捕後、当法律事務所が受任し、意見書を提出、交渉したところ、裁判所が勾留請求却下の決定を出し、釈放された。

B 50代、男性、公務員、迷惑防止条例違反により逮捕、犯行は否定した(否認)。前科前歴はない。家族あり。逮捕後、当法律事務所が受任し、意見書を提出、交渉したところ、検察官が勾留請求を出さず、釈放された。

C 40代、男性、会社員(会社の社員約6名)、強制わいせつ事件により逮捕、犯行は認めた。前科前歴なし。家族有り、逮捕後、当法律事務所が受任し、意見書を提出、交渉したところ、裁判所が勾留請求却下の決定を出し、釈放された。

D 30代、男性、会社員(会社の社員約200名)、迷惑防止条例違反により逮捕、犯行は認めた。前科前歴なし。家族有り。逮捕後、当法律事務所が受任し、意見書を提出、交渉したところ、裁判所が勾留請求却下の決定を出し、釈放された。

E 40代、男性、会社員(一部上場企業)、迷惑防止条例違反により逮捕、犯行は否定した(否認)。前科前歴なし。家族有り。逮捕後、当法律事務所が受任し、意見書を提出、交渉したところ、裁判所が勾留請求却下の決定を出し、釈放された。

F 40代、男性、公務員、迷惑防止条例違反により、逮捕、犯行は認めた。前科前歴なし。家族有り。逮捕後、当法律事務所が受任し、意見書を提出、交渉したところ、裁判所が勾留請求却下の決定を出し、釈放された。

G 20代、男性、会社員(一部上場企業)、傷害により、逮捕、犯行を認める。前科前歴なし。家族有り。逮捕後、当法律事務所が受任し、意見書を提出、交渉したところ、裁判所が勾留請求却下の決定を出し、れ釈放された。

H 40代、男性、会社員(社員数約70名)、迷惑防止条例違反、逮捕、犯行を認める。強制わいせつ罪(執行猶予)の前科有り。同居家族なし。逮捕後、当法律事務所が受任し、意見書を提出、交渉したところ、裁判所が勾留請求却下の決定を出し、釈放された。

勾留は、ア 被疑者が定まった住居を有しないとき、イ 被疑者が罪証を隠滅すると疑うに足りる相当な理由があるとき、ウ 被疑者が逃亡し、又は、逃亡に疑うに足りる相当な理由があるときに認められることになります。逆に言えば、これらの要件がすべて認められないと裁判官が判断した時に、勾留請求が却下されることになります。 

アの被疑者が定まった住居を有しないかどうかは明確かと思います。

イの「被疑者が罪証を隠滅する」とは、証拠をなくすことを意味します。 被害者を脅して、その証言を覆させることも含まれます。 上記の例で、迷惑防止条例違反(ちかん)の例が多いのは、ちかんの場合、被疑者は被害者の氏名・住所を知らないため、被疑者が罪証を隠滅するおそれがないことは、主張・立証しやすいためです。 ただ、上記にもあるように、傷害罪、強制わいせつ罪あるいは窃盗等の場合でも、その事案の特殊状況等を踏まえ、主張・立証等していくことになります。

否認の場合は、罪証を隠滅するおそれがある方に裁判所が考える傾向にありますが、否認であっても勾留請求が却下されることがあるのは、上記のB、Eの例のとおりです。 むしろ、否認したり認めたり等主張する内容が変わったり、お酒によって記憶がないと被疑者が述べている事案は、勾留請求が認められやすい(却下されない)傾向があると思います。

前科についても、一般的には、勾留請求を認める方向に行きがちですが、Hのように前科があっても認められる例もあります。 いずれにせよ、その事案ごとに罪証を隠滅する可能性がないことをどのように主張していくかが難しいところです。

ウの「逃亡の被疑者が逃亡し、又は、逃亡に疑うに足りる相当な理由」がないということを主張するためには、Hのように同居家族がなくても認められた例もありますが、家族はいた方が主張・立証しやすいです。 また、会社に勤務等、仕事をしていることも主張できた方がいいです。 勤務先は、公務員、大会社の方が主張・立証しやすいところはありますが、必ずしも、大きい会社でなくてもかまいません(Cの例など)。

どのような事情のもとで、どのように主張・立証するかは、弁護士としての技術ですが、ただ、前記のように、1日ないし2日の間に、これらの事情を被疑者及びその家族等から聞き取り、資料等を集め、書面化して、検察庁、裁判所に提出して、交渉しなければならないので、できるだけ早く、ご相談いただきたいというのが、弁護士としての気持ちです。

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※無料相談が可能な方は「東京都内の警察に逮捕された方またはその家族の方」となります。

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