令和6年2月15日より、性犯罪などの場合、犯罪被害者の名前などが起訴状、逮捕状等に記載されないことになりました。

いままでは法律上、起訴状、略式命令、逮捕状、勾留状には、原則として、被害者を特定するためにその名前や年齢が記載されていました、そのため、起訴状・略式命令の送達や、逮捕状・勾留状の呈示を通じて、被告人・被疑者が被害者の氏名等を知る可能性がありました。

このため、性的犯罪の裁判の場合などに、裁判官、検察官、弁護人が同意することで、起訴状に被害者の名前等を記載せず、法廷でも読み上げないなどの運用が行われたこともありますが、法律に違反するため、結局、行われなくなりました。

しかし、上記のような状態のままでは、二次被害・再被害が生じるおそれがあります。また、被害者も自分の名前等が被疑者等に知られることを嫌って、裁判に必要な協力が得られず起訴ができなくなることもありました。

そこで、平成28年の「刑事訴訟法等の一部を改正する法律」(平成28年法律第54号)附則第9条第3項で、「起訴状等における被害者の氏名の秘匿に係わる措置」が、今後の検討課題とされました。そして、令和5(2023)年5月17日「刑事訴訟法等の一部を改正する法律」(法律第28号)(以下「改正法」といいます。)が成立し、上記のように令和6(2024)年2月15日に施行(しこう:法律の効力を発生させること)しました。

改正法の内容は、以下のとおりです。

1 改正法が適用される場合及びその場合に起訴状等に記載されない情報

① 性犯罪(「刑法」上の不同意わいせつ、不同意性交などに限られず、「児童福祉法違反、児童買春、児童ポルノに係る行為等の規制及び処罰並びに児童の保護等に関する法律」違反、「性的な姿態を撮影する行為等の処罰及び押収物に記録された性的な姿態の影像に係る電磁的記録の消去等に関する法律」違反のわいせつなどを目的とする犯罪)に係わる事件の被害者の個人特定事項(名前及び住所その他、個人を特定する事項)

② 被害者以外の者で、個人特定事項が被疑者・被告人に知られることで、その者やその親族の身体・財産に害を加える行為がなされるなどのおそれがある者の個人特定事項

2 捜査・公判・判決後における改正法の対応

(1) 捜査段階における対応(改正法201条の2、271条の2など)
① 被疑者に対して、上記「1」の記載のない逮捕状又は勾留状の抄本等を呈示する。
② 被疑者に対して、勾留質問手続きなどにおいて上記「Ⅰ」を明らかにしない方法で被疑事実を告知する。
(2) 公判段階における対応(改正法271条の2、271条の3など)
① 被告人に対して、上記「1」の記載のない起訴状抄本等を送達する。
② 弁護人に対して、上記「1」を被告人に知らせてはならない旨の条件を付けて起訴状等の謄本を送達し、証拠などを開示する。さらに、このやり方では、本制度の目的が達成できないと検察官が判断する場合は、弁護人にも、上記「1」が記載されていない起訴状等の謄本を送達するなどが可能である。
(3) 判決後の段階における対応(改正法271条の6など)
被告人からの判決の謄本の交付請求などに対し、上記「1」の記載のないものを交付する。

3 被告人等の防御に実質的な不利益を乗じる場合の対応(207条の3、271条の5など)

しかし、上記のように、被害者等の名前などを被告人、被疑者、さらに、弁護人(以下、「被告人等」といいます。)に秘匿することは、無罪を主張している事件などにおいて被告人等の裁判での防御権に実質的な不利益を生じさせることが考えられます。

そこで、上記「2」の対応が取られた場合に、被告人等の請求により、裁判官が、当該措置により被疑者の防御に実質的な不利益を生ずるおそれがあるなどと判断した場合は、個人特定事項の全部又は一部を被疑者に通知することができる制度を設けました。

この制度は、まだ、施行されたばかりで、その運用状況等については、明確な情報がありません。その被害者保護の目的は妥当と考えますが、被疑者、被告人が罪を認めている事案においては被害者との示談の成否、また、無罪を主張している事案においてはその争い方に影響を与える可能性もある制度です。

今後も、体験・情報がありましたら、記載したいと思います。

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