電車内等で痴漢と間違われ否認したところ、逮捕されたが勾留請求却下され釈放された場合であっても、警察、検察から、取り調べのための呼び出しがあったのに、これを拒否し続けると、再度、逮捕の上、勾留される場合もあります。

場合によっては、呼び出しに応じた上での黙秘等の対応が必要です。

この記事は、電車内等で痴漢と間違われ否認したところ、逮捕されず在宅となった方、又は逮捕されたが勾留請求却下され釈放された方に向けてのものです。

逮捕されたニュース

先日下記のようなニュースがありました。

「痴漢容疑で逮捕後釈放の男、出頭拒みまた逮捕、東京地検は7日、東京都迷惑防止条例違反(痴漢)容疑で警視庁に逮捕された後、勾留が認められずに釈放された会社員の男(43)を同条例違反容疑で改めて逮捕した。男は釈放後、任意での事情聴取のための出頭を拒み続けていた。」
(読売新聞 令和元年8月7日)

具体的な内容は、以下のようなもののようです。
① 電車内で痴漢と言われた男性が逮捕された。
② 逮捕後もその男性は否認を続け検察により、勾留を請求された。
③ 裁判所は、その男性より、「任意の捜査には応じる」との誓約を取り勾留請求を却下し釈放した。
④ ところが、地検の複数回の呼び出しに応じなかったことから再逮捕された。
⑤ これにより、この男性の実名も含め報道された。

勾留しなくなった理由

勾留は被疑者が①罪証を隠滅すると疑うに相当の理由があるとき、②逃亡し又は逃亡すると疑うに足りる相当な理由があるときのいずれかにあたる場合に認められます。

とはいえ、従前は、かなり広範囲に勾留が認められましたが、東京地裁の管轄内では、少なくとも痴漢事件等については前よりも厳格に判断されるようになりました。

つまり、痴漢の場合は、たまたま、電車内で同じ車両に乗った被害者に行われることが多く、被疑者は被害者がどこの誰だか知らず、被害者を脅して、罪証を隠滅する(証言を変えさせるなどして証拠をなくす)ことが考えづらいことから、定職があり家族がいるなど逃亡のおそれがないと判断される場合は、否認であっても、勾留の請求を却下し、釈放することが多くなりました。

任意の捜査に応じるという誓約

ただし、勾留請求を却下する場合、裁判所は、被疑者から上記のように、「任意の捜査には応じる」という誓約を取りますし、事件があった電車の区間は事件の処分(不起訴・起訴)が決まらない間は使わないなどの誓約もとって、釈放します。

本件の場合は、釈放された後、地検が取調のために、何度も出頭を命じたが応じなかったため、再逮捕されたというケースです。

確かに、同じ犯罪で再逮捕されるというのは、かなり珍しいケースで、そもそも逮捕の必要性があったのかが問題となります。

しかし、外国人登録法(昭和62年法律第102号による改正前のもの)に定める指紋押捺を拒否した者について、その者の「生活は安定したものであったことがうかがわれ、」「この点については自ら認めていたのであるから、」「逃亡のおそれ及び指紋押なつをしなかったとの事実に関する罪証隠滅のおそれが強いものであったということはできないが」「5回にわたって任意出頭するように求められながら、正当な理由がなく出頭」しなかったこと等などから、逮捕の必要性を認めた最高裁の判決(平成10年9月7日裁判集民189号613頁)もあります。

任意だから自由という考え

任意捜査だから応じるかどうかは自由という考え方も成り立たないわけではありませんが、逮捕するかどうかは、被疑者・弁護人がコントロールできることではなく、本件の場合、裁判所に「任意の捜査には応じる」との誓約を出していますので、再逮捕は当然、想定の範囲内だと思います。

むろん、本件の場合は、身体の拘束、実名報道などのリスクを承知の上で、このような対処方法になったのかもしれませんので、方法の適当・不適当については、判断できません。この事案により、最高裁の判決が変わる可能性もゼロではありません。

当法律事務所の場合

ただ、私であれば、本件のようなケースにおいては、一般的には、被疑者の方に、出頭したうえで黙秘することを勧めます。日本の場合、取り調べに弁護士は同席できませんので、この場合の弁護士のサポートとしては、同行し、黙秘する旨の書面を警察又は検察に提出し、捜査機関内等で取り調べの間、待機することになります。このような対応であれば、再逮捕、勾留されることはありません。

電車内等で痴漢と間違われ、否認したところ、逮捕されず在宅となった方、又は、逮捕されたが勾留請求却下され釈放された方は、釈放されたからと行って、油断することなく、弁護人が決まっていないなら、弁護士に相談されることをお勧めします。

刑事事件お問い合わせ
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※無料相談が可能な方は「東京都内の警察に逮捕された方またはその家族の方」となります。

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