迷惑防止条例が適用される典型的な犯罪は、「痴漢(ちかん)」です。当事務所の近隣の各都道府県で、「ちかん」について、規定されたいわゆる迷惑防止条例の内容をまとめると
①公共の場所又は公共の乗物等において、
②衣服その他の身に着ける物の上から又は直接に人の身体に触れること等、人を著しく羞恥させ、又は人に不安を覚えさせるような卑わいな言動を行うこと
により成立します。

①の「公共の場所」とは、「道路、公園、広場、駅、空港、ふ頭、興行場、その他」(東京都:公衆に著しく迷惑をかける暴力的不良行為等の防止に関する条例 第2条1項)、「公共の乗物」とは、「汽車、電車、乗合自動車、船舶、航空機、その他」(同前)、の不特定多数の者が自由に利用できる場所・乗物のことです。 そのため、個人の居宅、タクシー、貸切バスは含まれないと考えられます。 他方、飲食店等の店舗の場合、個室の場合は適用されないことがほとんどですが、オープンスペースの場合は、適用の可能性があります。

②の「人」とは、男女を問いません。昭和の制定当時は、「女性」に限定されている条例が多かったようですが、男性に対するちかん行為も無視できないことから、「人」あるいは、千葉県の迷惑防止条例のように、「男子に対するこれらの行為も、同様とする。」のように規定するようになりました。 なお、男性の男性に対する痴漢行為も、当事務所では、否認事例、自白事例など複数回の受任実績があります。
また、「著しく」とは、一般の人が「ひどい」と思う程度のもので足り、「羞恥させ」とは、恥じらいを感じさせるという意味であり、「不安を覚えさせる」とは、身体・心理に危険等を感じさせることであり、「卑わい」とは、性的道義観念に反し、性的羞恥心、嫌悪、不安を覚えさせるようないやらしくみだらであることです。 そこで、これらに該当する行為としては、例えば、お尻、太もも、膝頭(ひざがしら)にさわる、スカートをまくる、スカートのファスナーをはずす等があります。

強制わいせつ罪との違い
同じく「痴漢(ちかん)」に適用される法律としては、刑法第176条の強制わいせつ罪があります。こちらは、(ア)暴行(ぼうこう)又は脅迫(きょうはく)を用いて、(イ)わいせつな行為をすれば、成立します。 ただし、13歳未満の男女に対して行った場合は、(ア)の暴行又は脅迫がなくても、(イ)のわいせつ行為だけで、強制わいせつ罪が成立します。 罰も迷惑防止条例違反より重く、「6月以上10年以下の懲役」と懲役刑のみが定められており、罰金刑がありません。

迷惑防止条例と強制わいせつ罪は、迷惑防止条例違反の保護法益(ほごほうえき:当該法律が保護の対象としている利益のこと)は「(都道府県の)市民生活の平穏の保持」であり、強制わいせつ罪は個人の性的自由であることから、理論的には、1つの事件で、両方の罪が適用されることもあることになりますが、通常は、適用場面が分けられることになります。

迷惑防止条例は、「公共の場所又は公共の乗物等」の公の場所で行われたことが、成立の要件となっています。したがって、個人の居宅や居室など公の場所でないところで行われた場合は、強制わいせつ罪の成立はともかく、迷惑防止条例は適用されません。

また、強制わいせつ罪は、その成立に(ア)暴行(ぼうこう)又は脅迫(きょうはく)を要すること、その罰則が初犯でも「6月以上10年以下の懲役」と、迷惑防止条例の「6ヶ月以下の懲役又は50万円以下の罰金」(東京都の場合)と比べて、圧倒的に重いことから、「公共の場所又は公共の乗物等」で行われた痴漢(ちかん)行為で、より重い行為については、強制わいせつ罪が適用されることになります。

どのような行為が迷惑防止条例ではなく、強制わいせつ罪に該当するかになるかについては、その時の状況等も総合的に考慮されますが、一般的には、
上着・下着の上から足・お尻・陰部等に接触した場合は、迷惑防止条例違反、
下着の中に手を入れ陰部等に接触した場合は、強制わいせつ罪
が適用されているようです。

このように適用場面は分けられるにしても、強制わいせつ罪は、個人の性的自由を保護法益とすることから、犯罪として成立するためには、わいせつ行為を行った者が(被疑者等)、その自己の行為を認識(にんしき)し、その上で行為を行う(認容→認容)だけでは足りず、性欲を刺激、興奮、満足させる意図で行われることが必要との考え方が多数です。 これに対し、迷惑防止条例違反は、「市民生活の平穏の保持」であることから、このような意図は不要と考えられますが、警察・検察の中では、迷惑防止条例違反の場合も、このような意図を求める担当もいます。 この点をどう考えるかで、差が出るのは、例えば、満員電車で混雑のため、女性のお尻に触れてしまったが、そのまま手の位置を動かさなかったが、上記のような性的意図はなかったと主張するような場合です。 性欲を刺激、興奮、満足させる意図がなければ、迷惑防止条例が成立しないと考えると否認していることになりますが、なくても成立すると考えれば、罪を認めていることになります。 そのため、勾留決定に対し、意見を出す場合等などに、問題となります。

加えて、強制わいせつ罪は、親告罪(しんこくざい)であり、被害者の告訴が起訴するための要件ですので、示談等により、公訴提起前に被害者が告訴を取り下げた場合には、その時点で、処罰を受ける可能性はなくなり、勾留されていても、即日、釈放となります。 しかし、迷惑防止条例違反は、親告罪でないため、たとえ、初犯で、示談等により告訴や被害届が取り下げられたとしても、理論上は必ず不起訴になるとは限らず、勾留されている場合、示談等と同時に直ちに釈放されるとも限りません。

痴漢行為を認めている場合の弁護活動、 痴漢行為を否認している場合の弁護活動もご覧ください。

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