痴漢冤罪に対抗するためには

このページでは、痴漢冤罪に対抗する方法を(被疑者段階で迷惑防止条例違反の痴漢の場合)を解説します。
長文になりますが、痴漢冤罪で逮捕された場合の重要なポイントを解説していますので、最後まで読んでいただけたら幸いです。

やってもいない犯罪をやったといわれ、逮捕される(えん罪)ことは、あってはならないことです。
しかし、警察、検察、裁判官も、神ではない以上、えん罪は、なくなりません。

平成26年版の経済白書50頁(法務省法務総合研究所編)によれば、平成25年の裁判確定数(道交法違反等も含まれる)は、36万5291件で、そのうち、無罪は122件で、裁判確定人員総数の0.03%でした。
ですので、有罪率としては、99.7%という数字になります。

しかし、この数字だけで、おそれてはいけません。
上記の36万5291件の内、ほとんどが有罪を認めているケースで有り、否認のケースは1割もないと思います。

さらに、日本の裁判は、検察官が起訴をすることにより、スタートしますが、被疑者が無罪を主張する事件であっても、検察官が有罪にするだけの証拠がないと判断した場合は、嫌疑不十分ということで、不起訴になります。
平成25年には、16万4711件の不起訴のうち、3万5853件が嫌疑不十分を理由とするものでした(上記犯罪白書49)。

また、日本の司法は、人質司法(ひとじちしほう)と言われ、一度逮捕されると、特に否認の場合は、勾留が必ずつき、起訴後も保釈が認められないと言われるような状況でしたが、

「逮捕された容疑者を拘束する検察の勾留請求を全国の地裁と簡裁が却下する件数が年々増加し、2014年に3000件を突破して過去40年で最多となったことが分かった。」
「08年以降は却下率1%未満が続き、却下は数百件にとどまった。」
「しかし、09年の裁判員制度スタートに向け、05年に公判開始前に争点を絞り込む公判前整理手続きが始まると、却下件数が増加。06年に1000件を突破した。 14年は11万5338件の勾留請求のうち、前年比819件増の3127件が却下された。却下率は2.7%だった。」
(平成27年12月24日付毎日新聞)

と勾留請求却下の件数も増加しつつあり、また、保釈についても、
「95年に20%を割り込んだ保釈率は低下傾向が続いていたが、14年は25.1%まで上がった。」(上記同記事)
と、やっていないことをやっていないと正しく主張できる環境が整いつつあります。

当事務所が受任した事件でも、否認で、勾留請求却下の上、不起訴等が認められた事件が多数あります

以下においては、説例により、ちかんの迷惑防止条例違反の否認事件(逮捕事案)の被疑者段階での弁護士(弁護人の)対応について、できるだけ具体的に説明したいと思います。
万が一、ご家族等が、逮捕されるようなことがあった場合、刑事手続がどう進むかを理解された上、どうすれば、できるだけよい結果に結びつけられるかという観点から、参考にしていただければ幸いです。

なお、否認事件(無罪を主張する事件)に対する弁護士の対応は、マニュアル的な画一的な対応でなく、事案ごとに構築していかなければならないため、下記の対応も、一つの例であることは、ご了承下さい。

痴漢冤罪の弁護例

当事務所で、受任を受けた多数の事件を参考に、痴漢冤罪の弁護例を作成しましたので、参考にしてください。

【設例】
会社員のAは、専業主婦の妻と中学生の娘、小学校の息子の4人家族で、東京都の郊外のアパートに住んでいました。
いままで、違法な行為を行ったことはなく、当然、前科前歴もありません。平成●●年6月1日(金曜日)の朝7時30分、出勤のため、最寄りのJRのB駅から乗車しました。

会社には、JRのC駅で下車をし、地下鉄に乗り換えて、会社の最寄りの駅まで乗車することになります。
Aが乗車した電車は、ぎゅうぎゅう詰めの満員で、C駅に午前8時ころ到着しました。C駅で、Aは押し出されるようにして、ホームに出ました。

すると、突然、20代のOL風の女性が、Aの右腕を掴み、「あなた、ちかんをしたでしょう。」と言いました。
どうやら、その女性も、押し出されるように、ホームに出たようですが、出る際に、Aが右手で、お尻を触ったと主張しているようです。

Aとしては、当然、身に覚えがないことなので、「そんなことはやっていない。」と述べました。
すると、その女性は、「じゃあ、駅員さんのところで、話しましょう。」と言って、駅員さんを呼びました。 すると駅員さんが近づいてきて、Aさんと女性に、一緒に来るようにいいました。

Aさんは、会社に遅刻することは心配でしたが、駅の事務室で、女性に説明すればわかってくれると思いついていきました。
ところが、駅の事務室に行ったところ、女性と別々の部屋に入れられ、話は全くできない状態でした。
そして、しばらくすると、C駅を管轄とするD警察暑の警察官3名が、来て、Aを、D警察署に連れて行きました。 以上が、Aが迷惑防止条例違反で、逮捕された経緯です。

受任の経緯

ご本人が逮捕されずに、在宅で捜査が続く場合は、ご本人が当事務所に来所され、相談ということになりますが、今回は、逮捕されていることが前提の事案ですので、ご家族等から、夫、息子等が逮捕されたという、ご相談を受けて始まることになります。

典型的な電車内でのちかん(えん罪)事件の場合、事件が起こるのは、設例のように朝か、そうでなければ、夕方の通勤時間帯です。

ご家族が、一番早く事件のことを知るパターンとしては、ご本人(被疑者)が、痴漢と言われ、駅員等に駅事務室に連れて行かれる前、あるいは、駅事務所にいる間に、ご家族に携帯電話で、電話をするパターンです。

それ以外の場合で、一番多いのは、警察からの連絡で知るというパターンです。
この場合、警察の取調べが一通り終わってからということになりますので、朝に事件があった場合でも、夕方近く、夕方に事件があった場合は、午後11時~12時に電話がある場合が多いと思います。
このような警察からの電話が夜中にかかってくると、家族の方がパニックになるのは当たり前のことです。

しかし、事件の当日に知ったのであれば、あわてる必要はありません。
本当は、まず、寝ていただく等して、落ち着いていただくのがいいのですが、それは難しいでしょう。

そうであれば、まずは、インターネットで、当事務所を含めた弁護士のサイト等を見て、情報を集めて下さい。
その上で、夜が明けたら、当事務所等にご連絡し、当日の法律相談のお約束を入れていただければ、後記のとおり、間に合います。

当事務所では、刑事事件の法律相談については、初回1時間、無料としております。

法律相談で、刑事手続についてのご説明及び、ご家族にわかっている情報等から、大きな方針をご説明の上、費用等をご説明し、契約をするなどすることになります。
むろん、接見で、本人(A)が依頼を断った場合は、契約は取り消しとなりますので、ご安心下さい。

なお、警察からの連絡の電話は、通常本人(設例ではA)に、家族に連絡してよいかを確認してから連絡をするので、本人Aが連絡することを拒否した場合は、連絡がないですし、独身で、ご両親と別居の状態だと、ご両親までは連絡が来ない場合がほとんどです。
このように、当日、警察からの連絡がない場合は、家族が、事件があったことを知るまでに、数日かかることもあります。この場合は、知った段階で、ご相談いただければと思います。

逮捕後の手続について

警察が逮捕した場合、被疑者(犯罪の疑いのある者)の身体の拘束を続けるためには、48時間以内に検察官に書類及び証拠物と共に送致しなければなりません(刑事訴訟法203条1項)。
そして、警察から送致を受けた検察官は、さらに拘束を続けるためには、24時間以内に裁判所に被疑者の勾留を請求し(刑事訴訟法205条1項)、10日間の勾留請求を認めるか、却下するかの判断をしてもらわなくてはなりません。

勾留決定後は、裁判所より、接見禁止の命令(弁護士以外が接見できない命令)が出されていない限り、家族等の一般の方も面会(接見)できますが、逮捕後勾留決定の前まで(72時間)は、法律上、家族等の接見を認める規定がありません。
しかし、場合によっては、この期間であっても認めてくれる場合もありますので、弁護士に依頼されない場合は、警察署の留置係に聞いてみていただければと思います。
ただ、認めてくれる場合も昼間の受付時間ですし、被疑者が、検察庁や裁判所に行っている場合は面会できません。

東京地裁本庁、及び、立川支部の管轄の場合(東京都内)については、検察への送致及び裁判所の勾留請求の面接の日は、それぞれ、別々の日に行われます。
これは、東京都内の場合は、被疑者の人数が多く、また、多数の警察署に勾留されているため、運搬のためのバスが、複数の警察署を回りながら、被疑者を検察庁、または、裁判所に連れて行くため、検察庁に行くにせよ、裁判所に行くにせよ、一日仕事となってしまうからです。
被疑者は、検察官・裁判官との面接以外は、バスの中、面接を待つ間等、しゃべることを禁じられています。

神奈川県、埼玉県、千葉県等の東京都以外の地域の場合は、検察官への送致及び裁判官の勾留請求の面接が同一日に行われます。

この設例は、東京都の場合ですので、これに沿って説明すると、6月1日(金)の午前8時ころに、事件が発生し、仮にこの時点で現行犯逮捕として、身体拘束された場合、48時間以内、すなわち、6月3日の午前8時までに、警察は検察官に送致しなければならないため、通常は、6月2日(土)に検察庁に送致されます。
ただ、逮捕の時間が遅くなった場合などは、6月3日(日)になることもあり得ます。土日になりますが、検察官はいますので、面談の上、勾留請求をするかどうかの判断をします。
ただし、土日祝日等の休日の場合、本来の担当の検察官ではなく、当番の検察官がこの判断を担当しますので、事後の処分の判断等は、本来の担当の検事が行うことになります。

さらに、検察官が勾留請求をした場合には、検察庁に行った次の日である6月3日(日)又は、4日(月)に裁判所に行くことになります。
この時、裁判官は、被疑者と面接し、勾留請求を認めるか、勾留請求を却下し釈放するかを判断することになります。

裁判官が勾留請求を認めた場合は、検察官が釈放してくれない限り、検察官が勾留請求を行った日から、10日間勾留され、さらに同じ罪で、最大限、もう10日間、勾留が延長される可能性があります。
そして、この罪だけの場合は、釈放がされない限り、この期間内に、検察官は、起訴するかどうかの判断をすることになります。

痴漢冤罪の不起訴に向けて

弁護士は、家族等からの依頼を受けると、警察署に行き、留置所の接見室で、被疑者である本人Aに面談(接見)することになります。

弁護士の場合、接見には時間制限がありませんし、夜あるいは早朝、でも接見可能です。
また、接見禁止の命令が出されている場合であっても、接見できます。
しかし、ほとんどの警察署には、接見室が一つしかなく、接見を求める弁護士が複数待っている場合などは、接見までに、2~3時間以上、待たせされることもあります。

接見の時、弁護士は、①自己紹介、②刑事事件における弁護士の役割の説明、③疑われている事実に関する事情聴取、④取調べ状況の把握などを行ないます 。
この①から④の細かい内容は、後記しますが、初回の接見が勾留請求の決定の前の場合は、これらに加え、勾留請求を出さないように検察官を説得するために必要な事実、または、勾留請求の決定を出さないように裁判官を説得するに必要な事実を聞き取らなければなりません。

勾留請求が認められてしまう根拠としては、罪証隠滅のおそれがあること、または、逃亡のおそれがあることです。

ここで、罪証隠滅(ざいしょういんめつ)とは、証拠を隠したり、なくすことです。
「ちかん」の場合でいえば、被害者を脅して、その証言を覆させることなどが想定されます。しかし、電車内のちかんの場合、通常、被害者と面識がなく、その名前、住所も知りませんから、このおそれは小さいと考えられます。
次に、逃亡のおそれが問題となります。例えば、本件の場合であれば、結婚しており、子供も二人いること、会社に勤務していることなどは、逃亡のおそれを小さくする要素です。

否認していること、つまり、ちかんをしていないと主張することは、直接ではありませんが、上記の罪証隠滅のおそれ、逃亡のおそれを強めることにはなります。
つまり、処罰を免れるために、罪証隠滅を行う、または、逃亡をする可能性が大きくなると判断させる要素となります。

しかし、当事務所の受任した事件では、ちかん、すなわち、迷惑防止条例違反や、強制わいせつ罪を否認している場合であっても、勾留請求却下となった多くの事案があります。

事案にもよりますが、むしろ、認めていたのが否認になったり、否認していたのが認めたりというように一貫性がない供述をしたために、勾留決定が出てしまうことも多いと感じています(これは、当事務所が、勾留が決定された後に受任した事案で感じることですが)。また、酔っ払って、覚えていないという事案の場合も、勾留決定が出てしまうことが多いと感じています。

適切なアドバイス及び裁判官と交渉するなど弁護士が弁護人として活動することで、釈放される可能性を大きくすることができます。

勾留請求される前、つまり、依頼者(被疑者)が検察官に会う前に、受任した場合は、上記のように依頼者(被疑者)から聞き取った事項をまとめた意見書を、検察官に提出して、勾留請求をしないように説得することになります。
しかし、検察官といえども、警察と同様、捜査を行う側ですので、特に否認の事案の場合は、勾留請求を出すことがほとんどです。

そこで、裁判官が勾留請求について、認めるか、却下するかの判断をする前に、受任できれば、裁判官に意見書を提出し、面談(裁判官には、弁護士は、直接会うことができます。)し、勾留請求を却下するよう説得することになります。

もちろん、上記の意見書には、罪証隠滅のおそれや、逃亡のおそれなどの勾留の条件がないことを主張し、それを明らかにする書類(勤務する会社の概要、身元引受書、不動産登記簿謄本等)を添付しますが、それだけでなく、ちかんをしていないことも主張します。

勾留決定が出された場合

勾留決定が出された場合は、検察官が勾留請求を行った日から、10日間勾留され、さらに同じ罪で、最大限、もう10日間、勾留が延長される可能性があります。
そして、この罪だけの場合は、釈放がされない限り、この期間内に、検察官は、起訴を含め、どのような処分をするかの判断をすることになります。

設例の場合、6月2日(土)に検察官が勾留請求したとすると、6月11日(月)までが、1回目の勾留期間となり、さらに、勾留の延長がされると、最大限6月21日(木)まで、勾留期間が継続することになります。
【設例】の場合は、「ちかんをしていない」と、否認をしていますので、検察官は、罪を犯したことを認めることを前提とする略式請求による処分、または、起訴猶予を理由とする不起訴処分を行うことはできず、(ア)起訴または、(イ)嫌疑無し(不十分)を理由とする不起訴処分を行うことになります(例外的に、処分保留で釈放し、後日、(ア)または(イ)の処分を行うこともあります。)。

弁護人が接見で行うこと

弁護人は接見で、本人Aに対し、①自己紹介、②刑事事件における弁護士の役割の説明、③疑われている事実に関する事情聴取、④刑事事件手続の説明、⑤取調べ状況の把握等を聞き取っていくことになります。

① 「自己紹介」は、名前及び家族の誰に頼まれたかを話すことになります。名前、事務所の住所・電話番号等については、名刺を、接見室のアクリル板越しに依頼者(被疑者)の方に見せるなどして、明示します。
委任を受けた場合には、弁護人選任届をいただくと共に、当該警察署の留置係(留置係の分も含め2通)を差し入れることになります。

② 「刑事事件における弁護人の役割の説明」は、弁護人が依頼者の味方であり、守秘義務があり、弁護人と話したことは、依頼者の許可がない限り、外にでないことなどを説明します。

③ 「疑われている事実に関する事情聴取」は、本件の場合であれば、朝起きてから、電車に乗り、警察署に行くまでの事項を、設例に記載されている事項はもとより、それ以外の具体的な電車の混み具合、依頼者、相手方の位置関関係、相手方の服装、未成年かどうか(いくつくらいか)等は、聞きますし、従前相手方を見たことはないか等も含め、多くの事実を聞くことになります。

④ 「刑事事件手続の説明」が必要なのは、依頼者の方は、通常、今後、どのような手続により、勾留されるのか、何日拘束されるのか、その後どうなるか等の刑事事件の手続をご存じなく、非常に不安に思われていることからです。そこで、逮捕→勾留の身体拘束の手続、及び検察官の処分→裁判等の手続を説明します。

⑤ 「取調べ状況の把握」をすることが、必要なのは、捜査側が、被疑者である依頼者からどの程度の情報を得ているかを知ることが、今後、依頼者が、どのように、どの程度、捜査側に供述(しゃべるか)をするかの方針を立てるために重要だからです。

本件の場合であれば、Aは、いつころ、警察署に連れて来られたのか、DNA検査、繊維検査、写真撮影、実況見分、取調べ等の内、どれをどのような順番で行ったのか、その中で、取調べは、どの部署の何という取調官が、どれくらいの時間で行い、取調官はどのような内容を話し、質問し、その態度は、どのようなものであったか、供述調書は、何通作成され、それぞれの調書で、どのような内容が記載されたのか、録音・録画等が行われたか等を聞きます。
取調べの内容等については、接見に行く毎に、前の接見後の状況を聞くことになります。

このような取調べの状況を記録するために、弁護士は、A(被疑者)に、「被疑者ノート」を差し入れることもあります。
「被疑者ノート」というのは、日弁連が作成して、各地の弁護士会に配布しているもので、日弁連のホームページで雛形をダウンロードすることもできます。

被疑者ノートには、いつ、どこで、何という取調官により、取調べの内容や、取調べのとき取調官がどんな言動・態度をしていたか、さらに、取調官がどこに関心を示したかなどをメモします。
被疑者ノートに記載してもらうのは、取調べの内容等を記録し、被疑者が不当な取り調べを受けることがないようにすることが目的です。
万が一、事実ではない供述を強いられたような場合でも、そのことを被疑者ノートに記載しておけば、後日、裁判の中で供述の信用性や任意性を争う有力な証拠となります。

供述調書

「供述調書」とは、依頼者(被疑者)から聞き取った内容を、警察官又は、検察官が聞き取った形式で作成された調書で、被疑者の署名又は捺印があるもののことです(刑事訴訟法第322条)。
供述調書の法律上の位置づけ、効果について説明し出すときりがありませんが、簡単にいうと、この調書で、犯罪を認める供述をしたと記載されてしまうと、裁判になって、無罪を主張して争っても、裁判官に無罪を認めてもらうことは難しくなります。

そのため、警察官や検察官は、被疑者に、その罪を認める供述をさせ、その内容を記載した供述調書に署名・捺印させようとしてきます。
極端な言い方ですが、供述調書は、警察官や検察官の作文と言われることさえあります。

また、警察官、検察官は、供述調書の信用性を増すために、いろいろなテクニックを使います。

例えば、元特捜検事・元弁護士だった田中守森一著「反転」幻冬舎文庫202頁以下には、そのテクニックのいくつかが記載されています。 ・「調書のなかにいくつか訂正したあとを意図的につくっておく。できれば、訂正箇所は、とるに足らない事項だと余計に都合がいい。たとえば前日の調書では、「朝、田中森一から挨拶されました」と書かれた調書を、翌日、「いや、あれは佐藤の間違いでした」と訂正する。調書は被疑者に署名させる前に検事が読んで聞かせ、供述内容に間違いがないかどうか、を確認することになっている。裁判官がこれを読んだとき、どうなるか。「朝の挨拶なんてどうでもいいのだが、そこまでチェックさせたのか」それで、取調べの信用性がぐんと増す。検事の言っていることは正しい、調書は正確にとられている、となるのだ。」

・「調書のなかでは、図面もよく使う。」「あらかじめこちらで調べ、それを伝えながら図面を描かせるのである。すると当然、正確な図ができあがる。が、あまりにも正確すぎるとおかしいので、ここでも少しだけ間違わせる。たとえば花瓶の位置とか、花の種類とか。そんなものは間違っていて当たり前だし、より信憑性があるからだ。」                       など

また、ワープロで作成された供述調書の中の小さな部分の誤りを、被疑者が申し出た形で、修正されることもよくあります。

裁判(公判)で、被告人が、警察官、検察官に脅迫、誘導等されて、事実でないことを供述調書に記載されたと証言しても、検察官は、被告人の申し出により小さい部分の訂正がなされていることを指摘し、訂正を主張できたから、供述調書の記載の内容は正しいと反対尋問することもよくあります。

そこで、このような供述調書の作成に対し、どう対応するかが、重要になります。

設例の被疑事実は、迷惑防止条例違反です。Aは、いままで、前科前歴もないということですから、弁護人としては、検察官の処分として、嫌疑なし、または、嫌疑不十分での不起訴処分をしてもらうことが目標となります。

勾留決定された場合の弁護の方針

勾留決定が出た場合、検察官が釈放してくれない限り、10日間勾留され、最大限さらに10日間、勾留される可能性があります。
そして、検察官は、この勾留の満期までに、処分(起訴か不起訴か)を決めなければならないことは、既に述べたとおりです。
さらに、否認の場合は、罰金がある罪(設例の迷惑防止条例の場合等)であっても、略式請求にすることはできません。したがって、起訴の場合は、正式裁判となりますので、保釈が認められない限り、勾留されたままになってしまいます。

そこで、一番、大きな問題は、このまま否認を貫くかどうかを判断することです。

次に、否認を貫く場合、取調に対し、どう対応するかが問題となります。
具体的には、警察官、検察官が、供述調書等を作成しようとするのに対し、どのように対応するかです。

この二つの問題は、さまざまな観点からメリット・デメリットを整理し、絡み合う諸事情を考慮しながら、判断しなければならず、大変難しいです。
当事務所は、依頼者の立場で、依頼者の知らない知識や視点を提供し、アドバイスをしつつ、その判断をサポートします。

否認を貫く場合、不起訴処分が出る場合であっても、最低でも10日~20日間は、勾留されてしまいます。
さらに、検察官が、起訴(正式裁判)の処分を行った場合は、保釈・判決で開放されるまで(むろん、保釈の決定あるいは、釈放される内容の判決がでることが前提ですが)、2ヶ月以上(期間は、事件の内容等により異なりますが)、勾留されることになります。

特に、勤務先との関係では、勾留が長引く場合、その対応をどうするかは、大変問題となります。
携帯電話が普及していない20数年前でしたら、たとえば、急に入院した等の言い訳もある程度可能でしたが、現在では、本人が、携帯電話で連絡が取れないという状況は、ほとんど説明ができません。
方法としては、信頼できる上司等にすべてを打ち明けて、会社内で対応してもらうことぐらいしか通常はないと思います。

否認を貫く場合、警察官・検察官が供述調書等を作成することに対する対応ては、大きく分けると
   ① 黙秘権を行使する。
   ② 供述はするが、署名押印については、拒否をする。
   ③ 供述し、誤りのない調書には、署名押印する。
の3つが考えられます。

まず、①の黙秘権ですが、黙秘権とは、憲法38条に「何人も、自己の不利益な供述を強要されない。」と規定されている権利で、これを実質的に担保するために、刑事訴訟法198条に、
1項「検察官、検察事務官又は司法警察職員は、犯罪の捜査をするについて必要があるときは、被疑者の出頭を求め、これを取り調べることができる。但し、被疑者は、逮捕又は勾留されている場合を除いては、出頭を拒み、又は出頭後、何時でも退去することができる。」
2項「前項の取調に際しては、被疑者に対し、あらかじめ、自己の意思に反して供述をする必要がない旨を告げなければならない。」
と規定され、
犯罪捜査規範168条に、
1項「被疑者の取調べを行うに当たっては、あらかじめ、自己の意思に反して供述する必要がない旨を告げなければならない。」
2項  「前項の告知は、取調べが相当期間中断した後再びこれを開始する場合又は取調べ警察官が交代した場合には、改めて行わなければならない。」
と規定されています。

被疑者となっても、この黙秘権に基づいて、供述を拒否することができます。

次に、②の「供述はするが、署名押印については、拒否をする。」ですが、刑事訴訟法198条5項には、
「被疑者が、調書に誤のないことを申し立てたときは、これに署名押印することを求めることができる。但し、これを拒絶した場合は、この限りでない。」
と規定されており、調書に署名捺印することを拒否することはできます。

ただ、取調べが、録画されている場合は、供述してしまえば、それ自体が証拠になりますので、③の場合と同様になります。

③の「供述し、誤りのない調書には、署名押印する」との対応については、特に説明する必要はないでしょう。

警察、検察は、捜査により犯罪者を特定する証拠を集め、手続に従い、必要があれば逮捕・勾留し、裁判により罪を確定し処罰することを目的としています。
その目的は正当なものです。しかし、それだけに、本当は犯人でない人が、誤って被疑者(犯罪を犯した疑いのある者)として、逮捕された場合は、依頼者(被疑者)の方と警察・検察は、極度の緊張関係になります。
警察・検察が悪いわけではなく、むしろ、職務に忠実だからこそ、そうなってしまうとも言えるのです。

一般の方は、警察・検察(捜査機関)に自分が犯罪をしていないことを納得してもらいたい、説得したいと考えます。
しかし、逮捕されている以上、捜査機関は、被疑者がその犯罪をしたと確信しているのが通常であって、この段階で、被疑者が供述したことだけで説得されるということはありません。
その意味では、自分が話せば相手(警察・検察)が説得されるという考えは、捨てて、いただかなければなりません。

嫌疑なしあるいは、嫌疑不十分による不起訴の処分をしてもらうためには、検察官が、依頼者(被疑者)を起訴するに十分な証拠がないと考える状態にしなければなりません。

そのためには、少なくとも、本人である依頼者(被疑者)からの情報である供述については、コントロールすることが必要です。

設例の場合は、アリバイ(不在証明)は、問題となりませんが、たとえば、アリバイにより、無罪であることが明確になる場合であっても、そのことを供述すると、警察・検察がそのアリバイを捜査することにより、証人が証言してくれなくなったりすることにより、結果的にアリバイを主張することができなくなることもありえます。

その意味では、嫌疑なしあるいは、嫌疑不十分による不起訴の処分にもっていく弁護の方針としては、①の黙秘権の行使が原則となります。むろん、取調べで、黙秘の方針をとるとしても、氏名・身上経歴については、供述し調書に署名・捺印することがほとんどでしょうし、裁判所での勾留質問調書についても、同様であることが多いでしょう。ただし、少なくとも、行為の具体的内容等については、黙っているということになります。

しかし、勾留されている場合、黙秘権の行使は、大変です。

警察官、検察官が激しい取調をすることが考えられます。また、警察官、検察官が、
「弁護士がお金のために、変なアドバイスをしているんだ。」
「そんな弁護士は、実務を知らない。」
等、弁護人を誹謗し、依頼者と弁護人との信頼関係を破壊しようとしていろいろなことを言ってくることもあります。

このような場合に備え、弁護人は、接見における聴き取り、前記の被疑者ノートの差し入れ等により、取調べの内容を記録するとともに、不当・違法な取調べがある場合は、下記のような対応を行います。

① 違法な取調べに対する抗議書の提出
内容証明郵便等により、警察官、検察官の違法な取調べに対する抗議書を提出します。
なお、最高検察庁は、平成20年5月1日付けで、「取調べに関する不満等の把握とこれに対する対応について(依命通達)」と題する通達を各地の検察庁に出していますが、その中で、
「弁護人等から被疑者の取調べに関して申入れがなされたときは及び被疑者から取調べに関する不満等の陳述がなされたときに、当該事件の決済官が之を把握し、速やかに所要の調査を行って必要な措置を講じるとともに、申入れ等の内容等を記録すること」と共に、適切な対応を求めています。 したがって、検察庁に対する上記抗議書を無視することはできません。

② 取調べ全課程録画の申入れ
現在、警察官及び検察官の取調べの一部について録画が行われていますが、全部の事件で録画がされているわけではありません。
違法な取調べが行われているのであれば、書面で、申し入れをすることにより、捜査機関の取調べを牽制します。

また、若干違った観点ですが、勾留期間延長の決定が出た場合、「勾留期間延長の裁判に対する準抗告の申立」を行い、勾留期間の短縮を図ることも検討します。

さらに、黙秘権を行使する場合には、依頼者(被疑者)に有利な供述も記録されないことになります。
そこで、依頼者の供述を弁護士が聴き取り、依頼者が署名捺印する形式での(弁面)調書を作成し公証役場での確定日付を得たり、弁護士照会、裁判所の証拠保全等による事実の調査をしたりすることも検討します。

否認の場合は、事件の特性等を見極め方針対応していかなければなりません。
供述調書作成についての対応にしても、前記の①~③の中で、場合によっては、調書ごとに対応を変える等適切な方法を選ばなければなりません。
当事務所は、依頼者に適切な知識の提供とアドバイスを行うことにより、依頼者の希望する目標を目指します。 

勾留請求却下された場合の弁護の方針

勾留請求却下され、釈放された場合であれば、方針としては、シンプルで、供述調書等の作成を拒否することになります。
とはいえ、出頭の要求が警察・検察から来ているのに行かなければ、再逮捕の危険性があります。

日本の法律では、警察官・検察官の取調べに弁護士が立ち会う権利を認めていません。

そこで、弁護人としては、依頼者(被疑者)と一緒に、警察・検察に行き、黙秘権を行使する旨の書面を提出し、取調べの際に、警察署・検察庁で、待機する形を取ります。
そのためには、警察・検察から出頭の連絡が入った段階で、弁護人である弁護士と日程の調整をしていただく必要はあります。

前記のとおり、一般の方は、警察・検察(捜査機関)に自分が犯罪をしていないことを納得してもらいたい、説得したいと思われます。
しかし、逮捕されている以上、捜査機関は、被疑者がその犯罪をしたと確信しているのが通常であって、この段階で、被疑者が供述したことだけで説得されるということはありません。
その意味では、説得しようという気持ちは、捨てて、いただかなければなりません。

当事務所は、様々な迷惑防止条例違反あるいは、強制わいせつ事件で、勾留請求却下等を取得し、さらに、不起訴処分を、取得した経験を有しています。

勤務先にどのように対応したらよいかの問題は、勾留請求却下を取得した場合にもありますが、当事務所は、このようなご相談にも対応します。

東京および東京近郊の警察で逮捕された被疑者・家族のために痴漢事件を扱う弁護士による電話無料相談を行っています。
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