電車内で痴漢事件が発生し、弁護士が被疑者(警察や検察などの捜査機関が犯罪の疑いをかけ,捜査の対象としている者)の弁護人となった場合、被疑者が、否認しているか、認めているかに関わらず、弁護人は、被疑者に接見するなどして、犯罪があったとされる状況等を聞き取らなければなりません。

この記事においては、その際、一般的にどのような事実を聞き取らなければならないかの概要を示したいと思います。

このような事実関係については、当然、警察、検察も取調べにおいて、聞いてくることであり、多くの場合、同じ事項を聞くことになります。

【挨拶】
配偶者、両親等に頼まれ、警察署の留置所で初めて、被疑者に会う場合は、名前、弁護士であること、誰から頼まれたか等を伝えることになります。
アクリル板越しの場合は、名刺をアクリル板に押しつけ、見てもらうこともあります。

検察庁で、担当検事を確認するためには、名前の外に、生年月日が必要なことから、生年月日が分からない場合は、聞くことになります。

【交通経路】
電車内の痴漢の場合であれば、まず、何の目的で、何時にどの駅から、何線の電車に乗り、どこの駅で乗り換えを行ったかを聞きます。

通勤経路である場合は、普段の通勤経路がどのようなものかを聞くことも必要です。

また、勾留決定前に、接見ができた場合は、裁判官との交渉のため、本件の決着がつくまで、その経路を使用しないことができるかどうか、その場合は、どのような経路が考えられるかを聞くことになります。

その上で、今回の件がどこ(駅)からどこ(駅)へ移動中に生じたのかを確認します。
迷惑防止条例違反の場合、県(都)境を越えて、電車の移動中に犯行が行われたとされると、複数の条例に抵触する場合もあります。

【電車内の状況】
電車内は、どの程度、混雑していたのか(・身動きができないほど混雑していた。・全く身動きできないほどではないが、かなり困難。・立っていた乗客の間はどの位空いていた等)。

被疑者の持ち物。服装。姿勢。電車内の位置。

被疑者と被害者との位置関係、乗車する前、乗車後、被疑者と被害者はどのように移動して、その位置に来たのか等を(電車の側面図、平面図を見せる等しながら)聞くことになります。

【被害者の状況】
被害者とされている方は、もともと知っている人かどうか、成人か、未成年か、いくつくらいの人なのか。
学生なのか、働いていると思われる方なのか、働いているとすれば、服装等からどのような職業の方と考えられるかを聞きます。

どこで、被害者を認識したのかも聞きます。
このことは、被害者を物色していたのではないかという観点から警察等の取り調べの際にも聞かれます。

【何が起こったか】
否認している場合、罪を認めている場合、どちらの場合も、どのようなことがあったのかを具体的に聞いていきます。

どちらの手のどの部分が相手のどの部分にどのように接触したのか、そのときの姿勢、持ち物、もう片方の手はどのような状態であったのか、被疑者と被害者の姿勢等を聞くことになります。

また、四方にどのような人がいたかも聞くことになります。

迷惑防止条例の成立については、性的意図は不要です(現在、ほとんどの性的犯罪については、その成立について主観的要件としての性的意図は不要です。強制わいせつ罪についての最高裁平成29年11月29日(最高裁判所刑事判例集71巻9号467頁外)など)。
このため、満員電車の中で、人の圧力等から偶然、手が第三者の臀部等に触れた場合でも、触れたのを認識・認容していながら、一定の時間、手を離さない場合は、犯罪の成立の余地があります。この観点からも、話を聞いていく必要があります。

【どのように捕まったか】
この点については、人違いの可能性(他の人が痴漢をしたのを勘違いで捕まる等した)観点からも聞いていく必要があります。
具体的には、被害者が被疑者を捕まえたとされる場合、触っている状態で手をつかんだのか、そうでないのか。等を具体的に聞く必要があります。

また、罪を認めているケースでは、その際、罪を認めていたのか、それとも否定していたのか、それはどうしてかも聞く必要があります。
示談を行おうとする場合、被害者の方から、その時は認めていなかったのはどうしてか等聞かれることも多いからです。

第三者が捕まえた場合、目撃者がいる場合は、その人のこと(位置関係、服装等)も具体的に聞く必要があります。

【警察署での取り調べの状況】
警察署で取り調べられた場合、警察署に何時ころ行き、何時頃取り調べが終わったかを聞きます。

何罪で調べられているか、担当は、何課(生活安全課等)の何という人なのかを聞きます。

通常、写真撮影、指紋採取、DNA鑑定、繊維鑑定等が行われますが、どれが行われたかを聞きます。

また、実況見分調書も作成されるのが通常です。実況見分調書とは、このような犯罪の場合は、警察署の一室で、犯行とされている状況(否定している場合はその状況)を、再現し、その内容について写真を撮影し、説明を加えた調書です。

さらに、取調べにより、調書(特定の事象についての調査内容を記載した文書、警察が作成し、内容に同意した旨の署名等が要求されます)が作成されますので、その通数、内容を確認する必要があります。

電車内の痴漢で逮捕された場合は、当初、2通作成されます。内1通は、身上経歴等が記載されます。もう1通は、本件の場合で言えば、電車内の状況について、記載されます。

被疑者に対し、弁護人は、取調べの際に、どのような内容を聞かれたかと、それがどのように調書に記載されたかを聞くことになります。

東京の場合、この種の事件で、警察と検察が口頭で取調べの内容等の報告等を行うことはまずないので、この調書にどのように記載されているかが、処分等との関係で、極めて、重要になります。

【経歴・学歴・職業等】
被疑者の方の経歴、(最終)学歴等を確認します。

さらに、現在の職業等(会社勤務か、会社勤務の場合はどのような会社で、どのような業務に従事しているか、公務員か、自営か等)を聞くことになります。

勾留請求を裁判所に却下してもらうためには、逃亡のおそれがないことを示さなければなりませんが、安定した職業があることは、1つの大きな強みです。

また、マスメディアへの公表の可能性の観点からも、どのような職業についているかは、大きな要素です。公務員、教師、自衛隊員、医師、弁護士、一部上場企業の部長以上の幹部等の場合は、マスメディアで公表される可能性が大きいです。

さらに、逮捕されている場合は、勤務先に知らせるかどうか、とのように対応するかも大きな問題です。

【家族・居住状況】
家族関係(結婚、子供の有無。未婚の場合は、両親等と同居しているかどうか)、居住関係(だれと住んでいるか。自宅は賃貸しているのか、所有しているか)などを聞くことになります。

勾留請求が考えられる事案では、同居家族があることも、逃亡のおそれを否定する要素の一つになります。

【その他】
前科、前歴がないか。犯罪を行ったことを認めている場合は余罪がないかを聞くことになります。

余罪については、警察等も聞くことから、調書にどのように記載されたかも聞くことになります。

以上は、私が被疑者となった方々にお聞きする一般的な内容です。むろん、これに加えて、その事件の特殊性に合わせてさまざまなことを聞いていくことになります。

家族が逮捕される等の場合は、刑事弁護に強い弁護士にご相談下さい。